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新潟地方裁判所 昭和56年(行ウ)1号 判決

原告 吉野静江

被告 日本専売公社高崎地方局長

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五五年六月六日付で原告に対してしたたばこ小売人不指定処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和四六年一〇月ころから、新潟県南蒲原郡中之島村大字福原五二四番地において、夫の吉野吉曽とともに吉野屋と称する食料・雑貨商を営んでいる者であるが、同所においてたばこ小売販売を始めるため、昭和五五年二月二七日、被告に対し、たばこ小売人指定の申請をしたところ、被告は、昭和五五年六月六日付で原告に対してたばこ専売法(以下「法」という。)三一条一項四号及び同法に基づいて日本専売公社において定めているたばこ小売人指定関係規程(以下「規程」という。)五条一項五号の標準取扱高不足の規定に該当することを理由としてたばこ小売人不指定の処分をした(以下「本件不指定処分」という。)。

そこで、原告は日本専売公社総裁に対し、昭和五五年七月五日、被告の本件不指定処分の取消しを求めて審査請求をしたが、同総裁は、昭和五六年四月一六日、本件不指定処分と同旨の理由で審査請求を棄却する旨の裁決をなし、同裁決は同月二〇日ころ原告に送達された。

2  しかしながら、本件不指定処分は次の理由により違法である。

(一) 法三一条一項四号及びこれに基づく規程五条一項五号(標準取扱高不足)によるたばこ小売人指定の制限は、憲法二二条一項に違反し、無効である。

すなわち、たばこ販売も本来国民が有する基本権の一つである営業の自由として憲法二二条一項により保障されているものである。そして、この権利は憲法上公共の福祉の制約に服するものであるが、右の制約は正当な政策目的を達成するために制約を加える必要があり、かつ制約の態様及び程度が相当なものでなければならず、合理性を欠く制約は憲法二二条一項に反し、違憲無効といわなければならない。

そこで、法三一条一項四号及び規程五条一項五号によるたばこ小売人指定の制約の合理性についてみるに、たばこ専売制が採用されている所以は、国の財政上の重要な収入を図ることを主たる目的とすると同時に、公衆が日常生活上たばこを利用しようとする場合に僻地たると都会たるとを問わず同一品質のたばこを同一価格により販売することによつて、公衆の広い需要を均等にみたす機会を与え、比較的簡便かつ容易にたばこを購入できるものとし、もつて公衆の日常生活の利便を図ろうとしているところにある。けつしてたばこ小売人の指定にあたり、小売人が製造たばこの販売によつて得る収益を確保又は保障することを目的とするものではないのである。

ところが、法三一条一項四号及び規程五条一項五号による標準取扱高による制限は、既設の小売人のたばこ販売によつて得る収益を確保し、その保護を図るものにほかならないといわざるをえない。すなわち、たばこ専売制の主目的である国の財政上の収入の観点からすれば、標準取扱高による制限は、まつたく無意味であるばかりか、むしろ右主目的に反するものであり、たばこの購売者の絶対数はほぼ決つており、右の制限をせずにたばこ小売人を指定した場合は一店当りの取扱高が減少するとしても国全体としてみた場合にはたばこ売上げによる収入は減少することはありえない。かえつてたばこ小売人同士は自己の売上げを伸ばすべく営業努力をするため、全体としてたばこの売上げによる収入が増加することが十分予想され、右の制限はたばこ専売制の主目的である国の財政上の収入を図ることにはならないのである。また、取扱高が低いことを理由に新たな小売人を認めないことは、前記の比較的簡便かつ容易にたばこを購入できるようにし、以つて公衆の日常生活の利便を図るという目的にも反するのであつて、本件の場合においても、原告がたばこ小売人となることにより、興野、福原、狐興野らの原告の営業所に近い住民らや右営業所付近の道路を利用する者に簡便かつ容易にたばこを購入できる機会を提供するものにほかならない。

してみると、法三一条一項四号及び規程五条一項五号による制限は、既設小売人の保護を図る以外の何ものでもなく、たばこ専売制の目的とするところではないのであつて、経済の自由競争を基盤とする我国において、たばこ小売人の制限は、何ら正当な政策目的を達するためのものでもなく、かつそのような制限を加える必要も見い出されず、制限の合理性は認められない。よつて、法三一条一項四号及びこれに基づく規程五条一項五号(標準取扱高不足)の規定は、憲法二二条一項に反し、無効といわなければならない。

(二) 仮に、法三一条一項四号及び規程五条一項五号の規定が合憲であるとしても、原告の予定営業所付近の住宅・営業所の所在状況、原告の固定客数、交通の便、通行量等からすれば、原告の取扱予定高は月平均約三〇万円近くに達することが見込まれ、原告は標準取扱高に達していたにもかかわらず、被告は、原告の標準取扱高の算定に際し、その前提事実の重大な誤認によりこれを不当に低く見積つた違法がある。

よつて、原告は本件不指定処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち、原告が食料・雑貨商を始めた時期及び裁決書が原告に送達された日は知らない。その余の事実は認める。

2  同2(一)、(二)はいずれも争う。

三  被告の主張

1  標準取扱高不足によるたばこ小売人指定制限の合憲性について

法は、たばこ販売の権能は国に専属し(法二条)、この権能は日本専売公社(以下「公社」という。)に行わせると規定し、更に、公社はその指定したたばこ小売人にたばこを販売させることができ、公社又は指定小売人でなければ販売してはならない(法二九条)と規定している。すなわち、たばこの販売等の事業については、単に行政上の目的から一般的に禁止しているのではなく、国家独占事業として専売制を採用している。したがつて、公社の行うたばこ小売人の指定は、本来国家が独占し国民の行いえないたばこ販売を特に特別の場合に国民に行わせるもので、特定人にたばこ販売の権利もしくは資格を新たに設定付与する性質の行為であるということができ、それは、本来国民の有する営業の自由を回復するためそれに加えられた一般的制限を解除するにすぎない他の営業の許可処分とはその性格を異にするいわゆる形成的行為である「特許」ということができる。よつて、たばこ販売も国民が本来有する自由権の一つであり法三一条一項四号及びこれに基づく規程五条一項五号を根拠とする標準取扱高によるたばこ小売人の指定の制限が憲法二二条一項に違反するとの原告の主張は、そもそも失当である。

また、仮にたばこ小売人の指定を憲法二二条一項にいう営業の自由の角度からとらえても、同条に牴触するものではない。たばこの販売等について専売制が採用された主たる目的は、国の財政上の見地から必要な収入を確保することにあるが、原告主張のように小売人の指定を制限しなければ、たばこの売上げによる財政収入が増加するものでは決してない。すなわち、そもそもたばこの購売者の絶対数はほぼ決まつているのであるから、一定の地域においてたばこ小売人が配置されていない場合は別として、たばこ小売人が配置されている場合には更に追加して新たにたばこ小売人を指定してもたばこ小売人の零細化が行われるだけであつて、全体のたばこの売上げが増加するものではない。たばこの配達等流通に要する経費は被告の負担となるものであるが、その経費はたばこ小売人の数が増加するに伴つてほぼ比例的に増加するものであるから、無制限にたばこ小売人の指定を行うことは国の財政収入の確保に著しく悪い影響を及ぼす。財政収入確保の面からみれば、たばこ小売人の規模はできるだけ大規模化して取引の零細化を防ぎ、たばこ小売人の指導監督を強化して販売店の質の向上、専売価格の維持統制、専売品の信用保持、製品の需給調整の円滑化を図るなどして販売経費の節減と販売経費の効果的投入を期する必要があるから、たばこの総売上高に影響を及ぼさない程度においてたばこ小売人の数を規制して大型化することが要請される。しかし、一方で、たばこの販売は国の独占事業であるから、社会公共的配慮、すなわち、消費者のすべてにいかなる地域においても同一品質、同一価格のたばこを販売し、もつて一般国民の日常生活の必要に応じ、均等にたばこを供給できるようたばこ小売人を配置することも要請される。そこで、現行のたばこ小売人指定制度における標準取扱高による適正配置規制(法三一条一項四号、規程五条一項五号)は、たばこ専売制の主目的である財政収入の確保を図るとともに消費者の利便を調和させようとするものであり、たばこ専売制を円滑にかつ合目的的に施行するための必要かつ合理的な制約であつて、なんら憲法二二条一項に違反するものではない。

2  原告の標準取扱高不足について

たばこ小売人の指定にあたつては、前記のように専売事業の健全にして効率的・経済的運営を図るという企業政策的あるいは専門技術的な見地に立つた考慮を要することから、法三一条一項は、公社によるたばこ小売人の指定につき、適用に幅のあるところのあるいは公社による補充を要するところの抽象的規定を設けて公社による補完あるいは具体化を予定している。そこで、公社は、法三一条一項四号の規定の趣旨を具体化するため内部基準として規程を定め、これの運用に関し「たばこ小売人指定関係規程運用要領」(以下「要領」という。)を設けてたばこ小売人の指定の適正化、合理化を図り、あわせて、小売人の指定が恣意に流れるのを防止するとともに各指定相互間に矛盾・差異の生ずることがないようにしている。

そして、法三一条一項四号を具体化した規程四条一項は等地別に標準取扱高を定めているところ、この等地の認定については、要領によつて、環境区分別に応じ町村制施行地の住宅地(B)では七ないし九等地の範囲内で定められ、同じ地区内の既設小売人の一店当りの一か月平均取扱高に〇・八を乗じて得た金額がその範囲の中間等地の上位の等地に係る標準取扱高を超える場合には、その上位の等地とすることになつている。そこで、これによると、原告が申請した予定営業所の所在地は町村制施行地の住宅地(B)に該当し、この所在地区内の既設小売人の一店当りの月平均取扱高に〇・八を乗じて得た金額は金三〇万円を超えているので七等地にあたり、標準取扱高は一か月金三〇万円となるが、原告は身体障害者福祉法の適用を受ける者であるから、標準取扱高につき二割相当を緩和した一か月金二四万円に達すればよいことになる。しかるに、原告の場合には、その予定営業所の立地条件及び既設小売人の配置状況等からみて、たばこの供給対象がかなり限定されると認められ、要領で定める取扱予定高の算定方法によれば、原告の供給見込世帯数は三五世帯で、これに当該地域に適用される一世帯当りのたばこ消費金額四七八二円を乗じた約金一六万七〇〇〇円が原告の取扱予定高と算定されるので、標準取扱高に達しないものである。

そして、被告は実地調査その他の客観的資料に基づいて適正に原告の右標準取扱高不足を認定したものであるから、これを理由としてなした本件不指定処分はもとより適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1は争う。

2  同2のうち、原告の場合におけるたばこ小売人指定の標準取扱高が被告主張の月額二四万円であることは認め、その余は争う。

五  原告の反論

原告の固定客の世帯数は、興野で約三〇世帯、狐興野で約八世帯、末宝・福原で約二〇世帯の合計約五八世帯であり、このうち固く見積つて約四五世帯が原告方でたばこを購入する世帯とみて、おおむね一世帯当り一日平均二個のたばこを購入し、たばこ一箱の平均価格を低く見積つて一箱金一〇〇円とすると、一ケ月(三〇日)の売上高は約金二七万円が見込まれる。また原告の予定営業所付近には長岡市方面行きのバス停があつて、雨降りの日でも一日約九〇人の乗降客があり、かつ原告の予定営業所前の道路は中野部落に通じ、西側道路は興野へ通じていることから、通行量も十分あることが予想され、固く見積つて、一日平均約一五人の通行人によるたばこ購入が見込まれ、その売上高は月に約金四万五〇〇〇円になる。以上による売上高の合計は月平均約金三一万五〇〇〇円に達するばかりか、更に、本件たばこ小売人指定申請前の昭和五二・三年ころに原告の予定営業所付近には建材業高橋商店や建設業船津産業がすでに存在し、また、有限会社阿部製作所、有限会社福原機器、小野工務店、河内工務所なども存在しているから、それら事業所関係者による購入も見込まれるうえ、原告は自動販売機による販売、案内状による宣伝、電話による注文、積極的な配達等の出張販売も行うこととしているのであるから、原告の売上高が標準取扱高を超えることは明らかであつて、被告のした本件不指定処分には前提事実につき重大な誤認がある。

六  原告の反論に対する被告の認否及び再反論

原告の反論のうち、河内工務所が原告の供給対象範囲内にあることは認め、その余の事実は否認する。

原告予定営業所周辺の住宅群は、南側と北側に大別され、住宅の大半は南側に集中しているが、原告の予定営業所は二つの住宅群からやや離れた位置にある。原告の予定営業所の東側及び南側にはほとんど住宅等は存在しておらず、しかも南側住宅群の中には小林小売人及び山田小売人が配置されていること等からみて、原告の供給範囲は北側住宅群と南側住宅群のうちの一部に限定され、供給対象世帯数は三五世帯と見込まれる。原告主張のバス停におけるバスの運行本数は、一日六ないし七往復で乗降客数も一日二〇名程度にすぎないうえ、右バス停は原告の予定営業所から西方に約一三〇メートル離れており、住宅群の分布状況からして原告の予定営業所の前面道路を往来するバスの乗降客はほとんどなく、しかも乗降客は当該地区の居住者がほとんどであるから、バスの乗降客によるたばこの購買量を原告の取扱予定高に加算すべきでない。また、原告の予定営業所の前面及び西側の道路の通行量は朝夕の通勤時間帯を除けば少なく、通行人の大半も当該地区の居住者であるから、原告の取扱予定高の算定にあたり考慮する必要はない。原告の本件申請に対する被告の実地調査時点においては、有限会社船津産業及び高橋商店はいずれも開業しておらず、原告の主張するその他の事業所はいずれも家内工業的な極く小規模なものであり、かつ河内工務所以外は既設小売人との位置関係、道路の状況等を総合勘案すれば、原告の供給対象範囲外にあることになる。なお、河内工務所については、その規模を考慮して、すでに供給世帯数の中に含めている。

取扱予定高については、申請者の予定営業所の店頭において通常販売することが見込まれる取扱高を客観的資料に基づいて算定するものであり、出張販売による売上げは取扱予定高の算定につき考慮すべきものではない。自動販売機による販売も小売人が人手による対面販売を十分に行うことのできない場合にそれを補完する手段として設置されるものにすぎず、供給対象世帯数に変動はないのであるから、申請者に見込まれる取扱高に加算すべき要素となるものではない。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1項の事実については、原告が食料・雑貨商を開業したのは昭和四六年一〇月ころであること及び本件不指定処分についての審査請求に対する裁決書が原告に送達されたのは昭和五六年四月二〇日ころであることを除き当事者間に争いがなく、右の点については証人吉野吉曽の証言によりこれを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  まず、法三一条一項四号及びこれに基づく規程五条一項五号(標準取扱高不足)によるたばこ小売人指定の制限が憲法二二条一項に違反するか否かについて検討する。

1  法二条は、製造たばこの販売等の権能は国に専属すると規定し、同三条は、国に専属する右権能等は公社に行わせると規定し、更に同二九条は、公社はその指定した製造たばこの小売人に製造たばこを販売させることができ、公社又は小売人でなければ製造たばこを販売してはならないと規定しているが、これは、たばこの販売等の事業について、国家独占事業、すなわち、専売制を採用していることを明らかにしたものであるが、その立法趣旨は、国の財政上の見地から必要な収入の確保を図ることを主たる目的とするものであるが、それとともに、たばこ専売制を採用することによつて、公衆が日常生活上たばこを利用しようとする場合に、都会地たると僻地たるとを問わず同一品質のたばこを同一価格をもつて販売することによつて、その需要を均等に満たす機会を与え、比較的簡便かつ容易にたばこを購入できるものとし、公衆の日常生活における必要に応じることをも目的とするものであることは明らかである。そして、法は公社に小売人指定の権能を与えているが、これは右の目的を図る趣旨に出たものであるから、公社によるたばこ小売人の指定は、申請者に対し同人が当然には有していないたばこ販売の権利もしくは資格を新たに付与する行為であり、その行使にあたつては、専売事業の健全にして効率的・経済的運営を図るという企業政策的あるいは専門技術的な見地に基づく考慮がなされることが要請されるのである。

2  ところで、法三一条一項四号及び規程五条一項五号は、公社によるたばこ小売人の指定について、申請者の取扱予定高が公社の定める標準取扱高に達しない場合にはたばこ小売人の指定をしない旨を定めている。この規定は、たばこ小売人が零細化することを防ぎ一定規模以上に保とうとするものであるが、これによりたばこの流通、販売等に要する経費を節減し、たばこにつき専売制を採用する主目的である国の財政上の収入の確保を図ることが可能となる。また、右規定による制限なしにたばこ小売人を数多く指定するならば、一見消費者の利便を満たすようにもみえるが、あまりに多くの零細なたばこ小売人を認めることは公社による指導・監督を事実上不可能にするのであり、むしろたばこ小売人を一定規模以上にすることによつて、公社による専売品たるたばこの品質及び価格の保持ができ、国民一般の需要を均等に満たすことが可能となるのである。

したがつて、法三一条一項四号、規程五条一項五号に基づく標準取扱高不足によるたばこ小売人指定の制限は、たばこ販売等について専売制を採用する趣旨・目的に適合するものであつて、たばこ専売制の一環として公共の福祉を維持するための制度であり、なんら憲法二二条一項に違反するものではない。

三  次に、原告の取扱予定高が公社の定める標準取扱高に達していたか否かについて検討する。

1  たばこ小売人の指定は、前記のように企業政策的又は専門技術的見地に基づく考慮を要し、法三一条一項四号はその具体的適用において公社の定める準則によつて補充されることを予定しているが、公社はこれに基づき法の予定する妥当性の範囲内においてたばこ小売人の指定を適正かつ公平に行うために規程(乙第一号証)及びその運用に関する運用要領(乙第二号証)を定めている。

2  そして、原告の予定営業所における標準取扱高は、七等地で月額三〇万円であるが、原告が身体障害者福祉法に定める身体障害者に該当するので、右標準取扱高のうち八割を標準とみなされるため原告の場合の標準取扱高が月額二四万円であることは当事者間に争いがない。

3  ところで、右運用要領は、たばこ小売人指定申請者の取扱予定高の認定につき数種の算定方式を示しているが、このうち被告が原告の取扱予定高を認定するにあたり採用した運用要領に定める次の算定方式は、後記のような地域環境にある本件においては最も適切なものと認められる。

地域の販売実績/地域の戸数×申請者の供給見込戸数

(一)  成立に争いのない甲第一号証、乙第三、第四号証、第六号証、第九ないし第一一号証、原告主張のような写真であることにつき争いのない乙第七号証、証人柬理道夫、同吉野吉曽(ただし、後記措信しない部分を除く。)の各証言によれば、次の事実が認められる。

(1) 原告の予定営業所は、新潟県南蒲原郡中之島村のうち興野、狐興野、末宝、福原、宮内丁と呼ばれる地区からなる戸数約一三〇世帯の兼業農家を中心とする部落に属するが、この部落は南北に長く、住宅の分布状況からおおまかにみて約三〇世帯ある興野地区の北側住宅群と狐興野、末宝、福原、宮内丁地区からなる南側住宅群とに大別でき、このうち南側住宅群に住宅の多くが集まつている。

(2) 原告の予定営業所は、部落全体としてみると中間の地点にあるが、北側住宅群の南の外れにあり、また、南側住宅群の北端でかつ東端にあり、比較的住宅の少ない地域に位置しており、原告の予定営業所の南側及び東側はいずれも田であつて住宅はない。

(3) この部落には、すでに南側住宅群内に小林カズ小売人(屋号・角美屋)及び山田昭吾小売人(屋号・山田商会)の両既設たばこ小売人が存在してたばこ販売を行つており、原告の予定営業所は、小林小売人の営業所から約五〇〇メートル、山田小売人の営業所から約五五〇メートル離れた場所に位置している。

(4) 原告がその予定営業所付近にある事業所としてあげる有限会社船津産業は、昭和五五年八月五日に開業し、土木建築業を営むものであり、高橋商店は、昭和五五年四月に開業し、トラツク運送業を営むものであるが、いずれもその業務内容からして日中に事務所で勤務する者は少なく、また、有限会社阿部製作所、有限会社福原機器、小野工務店はいずれも本件部落のうち南側住宅群に所在するものであり、河内工務所のみが北側住宅群のなかにある。

(5) 原告の営業所の西方約一三〇メートルのところに越後交通株式会社のバスの興野停留所があるが、そこの一日のバスの運行本数は上・下合わせて一一本であつて、その乗降客も少なく、また原告の予定営業所の南側は幅員約四・五メートルの村道に面しているが、ここを通行する車両や通行人の数はわずかで閑散としている。

以上の各事実が認められ、右認定に反する証人吉野吉曽の供述部分はたやすく措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上の認定事実によれば、本件の部落のうち、南側住宅群の大半については原告がたばこ小売人に指定された場合でも既設小売人である小林小売人、山田小売人がたばこを供給することが予想されるのであり、原告がたばこを供給できる区域は興野地区にあたる北側住宅群が中心となるものであつて、その供給対象世帯数は、多く見積つても北側住宅群と、南側住宅群の一部の約四〇世帯を超えることはないというべきである。

(二)  ところで、成立に争いのない乙第八号証、証人柬理道夫の証言によれば、原告が予定営業所と定めた中之島村には既設小売人として二四店あるが、このうち地域環境を異にし住宅地区にある四店を除いた二〇店における昭和五四年四月から九月までの出張販売分を除いた店頭販売による一か月当りの一世帯のたばこ消費金額は金四七八二円であることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

なお、前記認定によれば、原告の予定営業所の南側の前面道路は車両及び人の通行量は少ないものと認められるので、原告の取扱予定高の算定にあたりこれを考慮する必要はない。また、原告は、営業所以外で出張販売し、多くの売上げを収めることができる旨を主張するが、法は、たばこ小売人の指定を受けるためにはその取扱予定高が出張販売によらず営業所での店頭販売により公社の定める標準取扱高に達することを要求しているものと解されるから(法三〇条一項、三項、四項参照)、原告の右主張は失当である。更に、原告は自動販売機による売上げも加算すべきであると主張するが、自動販売機が設置されても原告の予定営業所に設置されるものであつて、店頭販売による取扱予定高を増加させるものではないから、右主張も失当である。

4  したがつて、原告の予定営業所における取扱予定高は原告の場合の標準取扱高である金二四万円に達しないことは明らかであるから、法三一条一項四号に該当するものといわなければならない。

四  よつて、被告が原告に対してなした本件不指定処分にはなんらの違法の点はなく、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 柿沼久 清水信雄 石田浩二)

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